月夜曲

金沢21世紀美術館へ奈良さんの滞在制作の撮影しに行ってきた。
今回の撮影が、今までで最も奈良さんの作品と向き合った撮影だったと思う。

撮影日、初日、朝Kの開店前にアトリエへ。奈良さんは制作の調子がよさそうで
すごく嬉しくなる。大きな新作の制作中だった。そして、年末に撮影に来た時に
まだ描きかけだった絵が何点も完成していた。奈良さんの絵は、制作過程で
全く最初と最後では違う絵になってしまうので、あの時のどの絵が、どの絵に
なったのかわからない程だ。だから、今回の滞在制作で毎日変わっていく作品が
リアルタイムで観ていけるというのは、本当にものすごいプロジェクトだと思う。

金沢撮影の2日目の朝、完成した作品たちはベルリンに旅立って行った。それまで
アトリエにあった作品が全部梱包されて、アトリエから運び出された後、
ものすごい喪失感だった。
その時、ああ、奈良さんの作品は単に物ではないんだなと思った。
その喪失感は、人がいなくなっちゃった時と同じものだったから。考えてみたら、
奈良さんの作品を撮影する時、私はいつも作品の中の女の子が本当に人のように
感じられる。だから撮影の仕方も、物を撮るような感じではなく、人を撮る時の
気持ちだ。誰かがその人の全てをかけて作った作品に、魂が宿らないわけない。

そして、撮影3日目からは、朝アトリエに行くと、奈良さんはいつもまだ絵を
描いていた。るい君の作った朝食を食べ終わって、また描きだしたり、着替えて
帰る支度をしてから、また描いたりしていた。奈良さんが絵を描いている時、
アトリエはものすごい聖域になる。
立ち入ることはもちろんのこと、みてもいけないような気持ちになる。
だから、本当にドキドキした。本当にすごいものを見てしまったと思う。
アメリカの展覧会に出す、その大きな新作はやはり日に日に変わって行った。
奈良さんの絵が、なぜあんなに人を引きつける力を持っているのか、その理由を
はっきりと見た。今まで、作品がどんどん変わって完成するまでを目の前で
見たことなんてなかったし、それはものすごい衝撃だった。そして、やっぱりこの
作品がアメリカへ旅立って行った時、作品のなくなった後のアトリエで泣きそうに
なった。

今回はちょっと長めの滞在だったので、金沢も満喫。
休館日は撮影もお休みなので、オモニが泊まりで金沢に来てくれて、仕事で
金沢に来ていた坂部さんや柴さんと共に、おちょこや寛子ちゃんに金沢を
案内してもらった。
寛子ちゃんは雨だというのに、その日、着物を着て現れた。「金沢案内するなら
やっぱり着物でしょと思って。」と言いながら、昼間からワインを飲む姿は
素敵すぎた。
ばっちの誕生会をKのスタッフみんなとおちょこのバイト先の店でやったり、
たこ焼きパーティーをしたりもした。この時にあさこちゃんが作ってきてくれた
治部煮や加賀野菜のおひたしが感動的なおいしさだった。
夜中、金美にるい君やちえちゃん達と共におちょこに案内してもらったり。
前回行けなかったお店や、寛子ちゃんの実家、東湯にも行った。そして、
北出さんとも相当ディープな店に飲みに行ったり。
そして、夜な夜なおちょこと部屋に戻ってからいろんな話をした。

次は3月に撮影に行く予定。またあの聖域で生まれる作品と、みんなに会えるが
楽しみだ。